ブラックフライデーの違和感を良いきっかけに。スウェーデン発「長く巡る愛着の経済」のつくり方
2025.12.22
グリーンフライデーとは、ブラックフライデーの大量消費に対するカウンターとして生まれた、ヨーロッパ発のムーブメントです。「買わない」「長く使う」「循環させる」といった選択肢を、消費の中に取り戻そうとする動きでもあります。
この記事では、ブラックフライデーへの違和感を入口に、「長く使われ続けることで経済が回る」循環型モデルの実例をご紹介します。
ブラックフライデーのセール通知が届くたび、つい「お得だから」とカートに入れてしまう。けれど、荷物を開けたとき、ふと立ち止まることはありませんか?「本当に必要だったのかな」と。
この違和感の正体は、「セールのために経済が動く」構造そのものにあります。在庫処理ではなく、ブラックフライデーに合わせた販売戦略が、その結果、大量生産・大量廃棄につながっているとも言われています。
ヨーロッパでは今、この流れを変える選択肢が広がっています。中でもスウェーデンは、政策・企業・暮らしが同時に動き始めた代表例です。「長く巡る愛着の経済」を国ぐるみで実現しようとしています。
その象徴が、スウェーデンの子ども服ブランドPolarn O. Pyret(ポーラン・オ・ピレット)の「1着で3人の子どもに着てもらう」というビジョン。大量消費の「当たり前」を少しずつ書き換えていく、その小さな選択が、次世代に残せる豊かさにつながります。
ブラックフライデーは「在庫処理」ではなく、経済構造そのものが問題の可能性
実際、大量生産・大量廃棄のビジネスモデルが広く問題視されています。本来のニーズではなく「安くなれば買う」という購買が増加し、資源採掘から廃棄物まで、一連の流れが環境に高い負荷をかけています(出典:環境省説明資料)。
「セールありき」の収益構造になると、正価で買う理由がなくなります。消費者は「安く買えるのを待つ」心理になり、企業は短期的な売上最大化を目指す構造に陥る。その結果、企業も消費者も疲弊するサイクルが生まれてしまいます。
「割引しないと売れない仕組みは、本当に豊かなのか?」という問いかけは、私たちの消費行動そのものを問い直すきっかけになります。

グリーンフライデーとは?ヨーロッパ発「買わない選択」のカウンター文化
グリーンフライデーは、1990年代カナダ発祥の「Buy Nothing Day(何も買わない日)」を背景に、2010年代後半以降、フランスを中心に複数の団体や企業が関与しながら、「Green Friday」「Make Friday Green Again」といった形で広がってきました。
ブラックフライデーの「安さのための大量消費」を問い直し、買い方そのものを変えようとする動き。今では欧州全体で広がりを見せています(参考:Make Friday Green Again 2025)。
「地球はセールにならない」という象徴的なスローガンのもと、欧州委員会や環境NGOも関与。「買うなら環境負荷が低い選択肢を」「何も買わないことも選択肢」というメッセージを発信しています。
グリーンフライデーは、単なる「不買運動」ではありません。企業が積極的に参加し、新しい価値を提案する場として機能し始めています。
Patagoniaは2011年、「Don’t Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」というキャンペーンを展開。また、スウェーデンのアウトドアブランドHoudini Sportswearは、ブラックフライデーに対抗して「買わない」選択を推奨するメッセージを発信しており、修理サービスやレンタル事業「Houdini Rental」を展開する企業として知られています。
セールではなく「持続可能な選択肢」を可視化し、値引き競争から距離を置いてブランドの環境姿勢を明確にする。これが、グリーンフライデーの本質です。

スウェーデンの三位一体システム——政策・企業・暮らしが手を取り合う循環型経済
スウェーデンでは、政策・企業・暮らしが三位一体となって循環型経済を推進しています。このシステムこそが、「長く巡る愛着の経済」を実現する鍵なのです。
その核心にあるのが、リユース(中古・リセール)、レンタル(シェアリング)、リペア(修理)という3つの柱。これらがどのように政策・企業・暮らしの中で分担され、機能しているのかを見ていきましょう。
【政策】修理を後押しする税優遇制度で「直す文化」を経済的に支援
スウェーデンでは、家電や住宅の修理・改修にかかる人件費に対してROT控除(所得税控除)が適用され、家事サービスにはRUT控除が適用されるなど、修理・メンテナンスサービスが税優遇の対象となっています(出典:スウェーデン税務庁)。国家レベルで「買い替え」より「直す」ことを促す仕組みです。
一部の自治体では、リユースセンターでリサイクルショップ・修理カフェ・アップサイクル工房を集約し、「捨てる場」を「循環ビジネスと雇用を生む場」に変革しています。例えば、エスキルストゥーナ市のReTuna Återbruksgalleria(世界初の再利用専門ショッピングモール)は、2018年に約1,170万クローナ(約120万ドル)の売上を達成し、50以上の雇用を創出しました(出典:SwitchMed)。
【企業】Polarn O. Pyretの「使われ続けるほど利益になる」ビジネスモデル
Polarn O. Pyret(ポーラン・オ・ピレット)は、「1着を少なくとも3人の子どもに着てもらう」という目標を掲げています。
「新品購入→リセール→再利用」の循環モデルを自社で完結させ、「長く使える品質」をブランド価値として位置づけ。自社ポップアップでの中古販売、オンラインセカンドハンドサービス、他社との連携による再販プラットフォームを展開し、2023年度には12万4,500点を再販しました。
「売れ続ける」のではなく「使われ続ける」ことを重視するこのモデルは、「品質が良いほど何度も売上を生む」という新しい収益構造を実証しています。
【暮らし】「お下がり」を大切にする、北欧の消費文化
北欧では「プリラブド(Pre-loved:愛されたもの)」という考え方が広がっています。衣料品や子ども服における「お下がり」「中古品」を、むしろ価値あるものとして流通させる価値観です。
スウェーデンでは「ラゴム(Lagom)」というバランスの取れたライフスタイル志向が根付いており、過剰な消費を避け、適度で持続可能な生活を重視する文化が、修理・メンテナンス産業の定着を後押ししています。
なぜ今、循環型が「経済的に」価値を持つのか——ブラックフライデーとの比較
循環型消費は、単に「エコだからいい」というだけではありません。具体的な経済的メリットを持つビジネスモデルとして、ヨーロッパでは「利益になる仕組み」として機能しているのです。
ブラックフライデー型の従来型ビジネスモデルと、グリーンフライデー型の循環型ビジネスモデルを比較してみましょう。
ビジネスモデルについては、従来型が「売り切り型」であるのに対し、循環型は長期的に「使われ続ける」ことで利益を生み出します。集客方法も大きく異なり、従来型がセール前提の集客であるのに対し、循環型はブランド価値と環境姿勢による共感購買を重視します。
購買対象を見ると、従来型は新品の大量購入を促しますが、循環型ではレンタル・中古・修理といった多様な選択肢を提供します。リスクの面でも、従来型には値崩れリスクが大きい一方、循環型では高品質ほど循環価値が増すという特徴があります。
循環型では、在庫リスクの低減、LTV(顧客生涯価値)の向上、顧客ロイヤルティの強化が実現します。レンタルで継続収益をつくり、リセールで製品価値を維持し、修理で製品寿命を延ばして収益化する。これが、新しい経済価値のカタチです。
従来型のビジネスモデルは「売る瞬間」だけに焦点を当てているのに対し、循環型は「使われ続ける時間」全体を設計しています。つまり、循環型ビジネスは「モノの一生」に寄り添う仕組み。企業にとっても、消費者にとっても、そして地球にとっても、三方よしの関係を生み出す可能性が見えてきます。
こうした循環型モデルが、実際にビジネスとして成立している例の一つが、Polarn O. Pyretです。「売れ続ける」から「使われ続ける」への転換を実現し、「長く使える服は、何度でも価値を生み出せる」「品質が良いほど、循環ビジネスは強くなる」——このビジョンのもと、短期売上依存から脱却し、愛着と利益が両立する持続可能なビジネスモデルを確立したのです。

私たちにできる「長く巡る愛着の経済」への一歩
「割引しないと売れない仕組みは、本当に豊かなのか?」
「ヨーロッパでは、循環する仕組みで企業が利益を出し、環境負荷も減らしている。その現場を一緒に見てほしい」
One Planet Caféは、「持続可能性は義務でなく新しい価値創造」というマインドセットへの転換を訴えています。
「サステナビリティ=我慢」という固定観念を壊し、「長く愛せるモノを選び、手入れし、次の誰かにつなぐことで、より豊かでストーリーのある暮らし」——そんな未来が実現可能です。
大量消費の「当たり前」を書き換えるために、まずは小さな一歩から。
次のブラックフライデーまでに「自分なりの買い物ルール」を1つ決めてみる
このテーマは、日々の買い物にも、仕事の現場にも関わる話です。
もしみなさんが企業で働いているなら、職場で「セールに頼らない売り方」について話し合ってみるのはどうでしょう。プリラブドコーナーを試してみる、修理キャンペーンを企画してみる——小さな実験から始められます。
一般消費者の方なら、レンタル/シェア/リユースサービスを1つ試してみる、不要になったものを捨てずに修理・再利用・リセールを考える、次のブラックフライデーまでに「中古から探す」「まず修理を検討」「買わない日をつくる」など「自分なりの買い物ルール」を1つ決める——どれでもかまいません。
セール情報よりも「長く使えるか」「次の人に渡せるか」を軸にモノ選びを始めることが、循環型消費の一員になる第一歩です。

Polarn O. Pyretのプリラブドについて、もっと詳しく知りたい方へ
「1着で3人の子どもに着てもらう」という具体的な仕組みや実践方法について、詳細記事を公開しています。子ども服の循環モデルがどのように家族の絆を深め、企業文化の世代継承を支えるのか——ぜひご覧ください。
スウェーデンの現場を体験してみませんか?
「長く愛されるほど利益になる」という次世代のビジネスモデルは、座学ではつかみきれません。
Polarn O. Pyretのプリラブド戦略、修理税控除の現場、自治体によるリユースセンターなど、「環境負荷の低い経済価値」を国ぐるみでつくる仕組みを、現地で見て、肌で感じてみましょう。One Planet Caféでは、スウェーデンの政策・企業・暮らしの三位一体システムを現地で体験できる視察ツアーを開催しています。「長く巡る愛着の経済」を、あなたの会社や暮らしでも実践するヒントを持ち帰れます。
まとめ
「買わない」ことが我慢ではなく、新しい豊かさへの入り口だと実感しました。スウェーデンの循環型経済が教えてくれたのは、モノを長く使うことで企業も消費者も幸せになれるという、シンプルだけれど革命的な仕組みです。
みなさんが次のセール情報を見たとき、「本当に必要か」と立ち止まる瞬間が生まれたら。そこから、長く愛せるモノを選び、手入れし、次の誰かにつなぐ暮らしが始まります。「1着で3人の子どもに」というPolarn O. Pyretのビジョンは、私たちの日常でも実践できる希望です。
まずは、中古から探してみる。修理できないか考えてみる。レンタルを試してみる。その小さな一歩が、大量消費の「当たり前」を静かに書き換え、次世代に残せる豊かさへとつながっていくのです。

