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失業率約20%の都市が世界モデルに!『ICLEI』都市間連携の底力 | One Planet Café|ワンプラネットカフェ

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失業率約20%の都市が世界モデルに!『ICLEI』都市間連携の底力

2025.11.27

「持続可能な都市づくり」と聞いて、専門家や大企業だけが取り組む壮大なプロジェクトで、自分の暮らすまちには関係ないと思っていませんか?

実は今、世界125カ国、約2,500以上の自治体が参加する国際ネットワーク「ICLEI(イクレイ)」を通じて、都市同士が国境を越えて学び合い、変革を起こしています。1990年代に失業率が約20%超に達し、経済崩壊寸前だったスウェーデン・マルメ市が、今では環境先進都市として世界のモデルになっている。その背景に、このICLEIの存在がありました。

日本でも東京都を含む20以上の自治体がICLEIに加盟し、マルメ市との都市間連携を通じて新たな都市づくりの可能性を広げています。この記事では、世界の都市が直面する課題を、国境を越えた連携で解決する仕組み『ICLEI』を紹介します。

読み終える頃には、『自分のまちも変われるかもしれない』『自分にもできることがある』と感じていただけるはずです。持続可能な未来は、決して遠い世界の話ではありません。あなたのまちでもできることを、一緒に見つけていきましょう。

ICLEI(イクレイ)とは?世界2,500自治体をつなぐ国際ネットワーク

ICLEI(イクレイ)は、1990年に国連本部で誕生した世界最大級の自治体ネットワークです。正式名称は「持続可能な都市と地域をめざす自治体協議会」。世界125カ国、約2,500以上の自治体が加盟し、気候変動対策、循環型経済、生物多様性など幅広いテーマで知見を共有しています。

1990年、国連で生まれた「都市が主役の環境運動」

1990年、ニューヨークの国連本部で「持続可能な未来のための自治体世界会議」が開かれ、ICLEI(当初の名称は「国際環境自治体協議会」)が誕生しました。設立当初から一貫して掲げられてきた理念があります。

「地球規模の課題も、その解決の第一歩は一つひとつの地域(ローカル)の自発的な活動にある」

国レベルの合意だけでなく、市民に最も近い存在である自治体が主体的に行動し、その成功事例や知見を世界中で共有すること。それこそが、持続可能な未来への最も確実な道筋だとICLEIは考えています。

ある都市で生まれた小さな成功が、ICLEIのネットワークを通じて世界中に広がり、大きなインパクトを生み出していく。そんな循環を目指しています。

日本では20以上の自治体が加盟|東京都・横浜市・京都市など

ICLEIはドイツ・ボンの本部と、東京を含め世界に27の拠点があります。日本では現在、東京都、横浜市、京都市、北九州市、札幌市、富山市など20以上の自治体がICLEIに加盟しています。そのうち9つは「環境未来都市」または「環境モデル都市」として国からも認定されています。

ICLEIは単なる情報交換の場ではありません。政策支援、技術連携、資金獲得のための実践的なネットワークとして機能しています。たとえば、COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)などの国際会議では、ICLEIが世界の自治体の声を代弁し、政策決定プロセスに地方の視点が反映されるよう主導的な役割を果たしています。

失業率約20%から環境先進都市へ|マルメ市とICLEIが起こした奇跡

スウェーデン第3の都市マルメは、1990年代に経済崩壊寸前の危機に瀕していました。基幹産業だった造船業が衰退し、失業率は約20%に達していました。しかし今、マルメ市は環境先進都市として世界のモデルになっています。

1990年代、造船業崩壊で絶望に沈んだ港町

スウェーデン第3の都市マルメは、かつて重工業で栄え活気に満ちていました。しかし基幹産業だった造船業が衰退し、失業率は約20%に達しました。この数字は単なる統計ではなく、まちの未来に対する絶望感そのものでした。

マルメ市は危機的状況から立ち上がるために、市民が誇りに思う新たなアイデンティティが必要でした。

「変革には勇気が必要だった」※

マルメ市のソフィア・ヘデン副市長は、後にこう振り返っています。

「マルメ市が再生した理由の一つは、大きな問題を抱えていることを認識した上で、勇気をもって変革に臨んだからだと思います。民間企業と積極的に連携したことも大きかったですね」※

※引用元:Global City Network for Sustainability(G-NETS)Top>記事・動画>インタビュー>「都市の変革には勇気が必要」スウェーデン、マルメ市副市長

汚染された造船所跡地がカーボンニュートラル住宅地に

マルメ市が最初に取り組んだのが、「ウェスタンハーバー地区」の再生プロジェクトでした。

かつての巨大な造船所があったこの跡地は、深刻な環境汚染を抱える土地でもありました。汚染された土壌を除去し、100%再生可能エネルギーで自立する世初のカーボンニュートラルな地区として生まれ変わらせたのです。

成功の鍵は、ICLEIとの連携を通じて学んだ「官民連携」と「国の基準を上回る独自基準の設定」にありました。マルメ市は、開発ディベロッパーや市民グループと対話を重ね、国の基準を上回る独自の持続可能性基準(MBP Southプログラム)を設定しました。

現在、ウェスタンハーバー地区は造船業が盛んだった時代の3倍もの雇用を生み出しています。環境への取り組みが経済成長と両立できることを、マルメ市は力強く証明しているのです。

なぜ都市は国を超えて連携するのか?現場から生まれる新しいルール

国際的な合意形成には時間がかかります。しかし、都市はよりスピーディに動けます。市民に近い存在だからこそ、課題と解決策の距離が近い。ICLEIのような都市間ネットワークは、国家間交渉を待たずに「現場からのルール」を生み出す新しい力として期待が高まっています。

市民が廃虚を占拠→環境都市誕生|フライブルク市の事例

ドイツ・フライブルク市の『ヴォーバン地区』の物語は、市民主導のまちづくりが環境都市を生み出した注目すべき事例です。

1990年代初頭、フランス軍が撤退し、広大な兵舎跡地が残されました。そこに目をつけたのが市民たちでした。「SUSI(自主独立集落構想)」といった市民グループや、一部の不法占拠者たちが廃虚となった兵舎を使い始め、行政に対してオルタナティブなまちづくりを提言したのです。

この市民による力強いイニシアティブが行政を動かし、「ヴォーバン・フォーラム」という官民協働の場が生まれました。

その結果、開発された土地の65〜70%が大規模な開発業者ではなく、小規模な建設業者や市民の協同組合に売却されました。市民が行政に「参加」したのではなく、自ら未来を「創造」したのです。

「完璧な未来都市」は存在しない|課題と向き合う誠実さ

マルメ市もフライブルク市も、決して「完璧な未来都市」ではありません。

マルメ市では、スマートエネルギー地区を目指したプロジェクトで、風力発電所の建設に対して住民の反対がありました。フライブルク市では、環境意識の高い地区としての成功が、皮肉にも住宅価格の高騰を招き、若い世帯が市外へ転出せざるを得なくなりました。

しかし、両都市に共通しているのは、課題を隠さず誠実に向き合う姿勢です。完璧を目指すのではなく、試行錯誤しながら前に進む。その姿勢こそが、持続可能性の本質なのかもしれません。

あなたのまちも変えられる|ICLEIから始める持続可能な暮らし

この記事で紹介した事例から見えてくるのは、『都市が変われば、世界が変わる』という希望です。

マルメ市が経済危機から環境先進都市へと生まれ変わった物語、東京都との都市間連携、フライブルク市の市民主導のまちづくり。これらの事例が教えてくれるのは、試行錯誤しながら前に進むことの大切さです。

ICLEI(イクレイ)という国際ネットワークは、世界125カ国、約2,500以上の自治体をつなぎ、知見を共有し、互いに学び合う場を提供しています。そこには、「一人ひとりの行動が世界全体にインパクトを与える」という信念があります。

小さな一歩から始めよう|今日からできること

みなさんも、自分の住むまちがICLEIに加盟しているか確認してみませんか?

加盟していれば、どんな活動をしているのか調べてみる。未加盟なら、自治体に問い合わせたり、地域のサステナビリティ活動に参加してみる。SNSで情報を共有し、関心を持つ人とつながる。

マルメ市の成功モデルを現地で体験したい方には、One Planet Caféのスウェーデン視察ツアーもあります。20年・700名超をアテンドした実績を持つ専門ガイドたちが、CO2削減×経済成長両立のノウハウを実践的に伝えます。

持続可能な未来は、遠い世界の話ではありません。あなたのまちも、世界とつながる持続可能な未来の一部です。

現地で学ぶ | スウェーデン視察ツアーを見てみる

【関連リンク】
ICLEI Japan公式:https://japan.iclei.org/ja/
東京都G-NETS:https://www.g-nets.metro.tokyo.lg.jp/ja/
One Planet Café視察ツアー:https://oneplanetcafe.com/eco_tours/sweden-studytour/