PLAY FOR DEMOCRACY 民主主義で遊ぼう
2024.01.30
スウェーデンで、興味深い展示がありました。
『PLAY FOR DEMOCRACY 民主主義で遊ぼう』
「もし子供たちが、芸術的で楽しい建築と民主主義に関わると、何が生まれるか?」という問いのもと、小学5年生の子どもたちが、エンゲルホルム(Ängelholm)という街に新しく新設される市庁舎についてのさまざまなワークショップを通し、アートと民主主義を体験し、その手法と成果をモデル化するためのリサーチプロジェクトです。
ルンド大学、スウェーデン農業大学シンクタンク、フォーム・デザインセンター、スコーネ芸術振興協会、エンゲルホルム市役所が参画しています。
何だかとても面白そうだと思い、中を覗いてみました。
会場を見てまず感じたのは、「カラフルでクリエイティブで、とにかく楽しそう!」
展示とは言っても、写真や文字、映像だけの展示ではなく、子どもたちが実際に体験したワークショップを来場者も体験できるような参加型のレイアウトになっていたのです。
まさに子どもたちがこの「民主主義で遊ぼう」プロジェクトで体感したことそのものが体現されたような空間でした。
でも一体、「民主主義で遊ぶ」とは???
ハテナが残るなか、展示会場をまわってみました。
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プロジェクトの概要
120名の小学5年生の生徒が参加した、Lek för demokrati (Play for Democracy) *1というリサーチプロジェクト。2027年にスウェーデンのエンゲルホルムに新設される市庁舎の建設計画に携わることを仮定し、遊び心と真剣さを持ち合わせた子どもたちが、芸術と建築を通し彼ら自身の民主的な権利について学ぶ。
プロジェクトは、スタンフォード大学のデザイン研究所が提案したデザインシンキングやバイオミミック研究所によるバイオミミクリーのモデルなどを参考にした5~6段階のプロセスを利用している。
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展示は、子どもたちがプロジェクトの中で実際に行ったワークショップを体験できるフローになっていました。
●自分のアイデアを描いてみる
「あなたが大切だと思うものを描いてください。」
この文言から始まる最初のセクションは、自分のアイデアを自由に表現するワークショップ。紙とペンとテープが置いてあり、すでに壁にはこれまでの来場者による様々な作品が展示されています。
●実際にその空間を作ってみる
次のセクションは、「空間を作って、体験してみよう」。
いくつかのダンボールが積み上げてあり、多様な手段とスケールで空間の設計と占有を探求するワークショップ。これを通して、子どもたちは自分の体験や感覚と他者視点を学びます。
●アイデアを形にする
具体的なアイデアをハンディサイズのモデルへどう作り出すかというワークショップ。ここでは子どもたちが木材で作ったモデルが展示されていました。このワークショップはグループワークで行い、他者が持つ異なる希望やニーズをどう取り入れていくかというチームワークも学んだそうです。
●民主主義のプロトタイプを作る
社会との交流を目的としたワークショップ。実際に子どもたちは、市内でデモを企画・実施して、自分たちの持つ意見と権利を公共の場で表現することを学びます。会場にはそのデモで使われたプラカードの実物がいくつか展示されており、来場者はミニプラカードを作成し参加することができました。
●直接、声を届ける
プロジェクトでは、実際に子ども達がエンゲルホルム市長に声を届けるというプロセスも組み込まれました。事前練習では、180cmを超える背の高い市長のミニチュア版を作り、自分たちと同じくらいの身長になった市長のパネルに向かって、意見を伝える練習もしたそうです。
●モデルの建設と総括
最終段階では、子どもたちはプロの建築家や大工と協働し、高さ5メートル、横12メートルの建物を建てました。建物の完成後は、建物周りの環境も整えられ、その後就任式まで行われました。展示会場ではその様子が映像として披露されていました。このリサーチプロジェクトの最終プロセスは、子どもたちが体験してきたものを社会に共有することであり、それがまさにこの展示会で完結しています。
このプロジェクトの目的は、社会に影響を与えるための無限でクリエイティブな遊びと学習のプロセスを模索することであり、またその結果をプロトコルを通じて成果にまとめることでした。
驚いたことに、2027年に予定されているエンゲルホルムの新庁舎計画には、今回のプロジェクトで出たアイデアがいくつか採用されたということです。
スウェーデンの投票率は84%(’22年)*2で、日本と比べてはるかに高いことが分かります。また、あらゆる面においてスウェーデンでは民主主義がかなり根付いているように感じますが、そんな国でも常に「民主主義」を身近に感じるための取り組みや教育が、学校に限らずあらゆる場面で常に行われているということを垣間見ることができました。
民主主義に完成形はないからこそ、常に市民が参加し続けること、そして求め続けることが非常に重要だと感じた展示でした。
執筆:永江早紀
参考:
*2 SCB(スウェーデン統計データベース)